「扉を開けて入ってくる幾人かの心にはきちんと響いてほしい、ただそう思って本を並べている」
熊本は橙書店店主、田尻久子さんの2冊目のエッセイ。
主に熊本地震が発生した頃のこと、その地震によってお店を引っ越すことになったことを軸にお店の日常を綴っています。
田尻さんが好きだという雨の日の描写が多く、読んでいる間ずっと優しい雨音が聞こえていました。
そして愛すべき猫たち。僕のお店、そして自宅にも猫は居ませんが本書を読んでいる間ずっとその温もりを感じることが出来ました。
お客さんたちとの会話、窓からの眺め、ストーブの薬缶の音、珈琲の香り、本の手触り、遠い記憶
そういった気配をずっと感じながら読みました。
コズフィッシュの祖父江慎さんと根本匠さんのブックデザインが素晴らしいです。
少し厚手のカバーに、薄くて芯のある本文の紙は指が切れそうだけれど触り心地がよく、田尻さんの希望だという豊田直子さんの版画が絶妙に深い奥行きを与えてくれています。
おすすめの一冊。
著者:田尻久子 出版社:里山社 2019.3 ハードカバー 175p
新刊書籍