山岳文学、小説、詩、画集、哲学書、翻訳書、膨大な書籍を残し、今なお多くの人に愛される串田孫一。
串田孫一先生の文は誰にも分かりやすく、優しく、かつ真剣な眼差しが常に内包されていました。
こちらは串田孫一先生の代表作、あるいは最も愛されている本の一つ、「文房具」
消しゴム、万年筆、糊、定規、手帳、封筒、セロテープ、ホッチキス、ペーパー・ナイフ、クレヨン、クリップ、、
文筆家の必需品と言える文房具のお話。
最後の「文化を守る力」という随筆から以下を紹介させて頂きます。
「文化というものは、ある底辺を持った根強さはあるが、その上に築かれている部分は意外に脆いものであって、
愚かな権力者が現れて、その文化を無駄なものと無茶なことを言い出すと、簡単に崩れて、抵抗力がない。みんな落ちるところまで落ちると、却ってさっぱりしたような錯覚を抱いてしまう。
実は私はそれが恐ろしいと思った。その点で、文房具類は、戦時中に質は落ち、殆ど役に立たないような代用品も現れたが、ともかく文化を守ろうとする抵抗力があった。私はそれらの記念として、割箸に釘をさしたようなコンパスだの、ボール紙の雲形定規だの、アンプルに近い壜に入ったインキなどを保存している」
著者:串田孫一 出版社:白日社 1979 3刷 ハードカバー/函
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