春の夜にでかけてゆけばみつけさう羽根の尖つたやさしきものを(アビタシオン)
月光は踏むとしずかな音をたてひかりはじめるふしぎなひかり(とうめい)
檸檬ならおもたいほどを籠に持ち明けも日暮れもそばだてたき耳(檸檬)
手と手には体温と雨 往来にさみしくひかるいくつかの傘(体温と雨)
ばらまいた羽根のひかりをかなしみて翳(かげり)のごとき鍵盤の指(息)
三重県在住の歌人、木下こうの歌集。
2014年に砂子屋書房より刊行されていた歌集を、新装および増強して私家版として刊行されました。
砂子屋書房版は静かに話題となり、品切れとなっていました。
歌の素晴らしさに惚れて、著者とともに作製したのは大阪の歌人牛隆佑さんです。
一首、二首、と読み進むに連れてこの歌は今までにない言葉と感受性で歌われていることに気づきます。
そして一首読むたびに立ち止まり想像し体温を確かめるような悲しさと優しさが溢れています。
解説に詩人の西尾勝彦、印象的な装画はKeito。
しっとりとした手触りのある歌集です。
著者:木下こう 発行:牛隆佑 2019 ソフトカバー
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