木村和平はこれまでに、『piano』『楽譜』(共に私家版)、『袖幕』『灯台』(共にaptp)と4冊の写真集を発表してきた。
被写体や、カラー、モノクロなど手法の違いはあっても、反応する光の独自性と、感官を交差させて生み出すイメージは、たしかな印象を刻んできた。
そして2020年、写真集『あたらしい窓』において、木村は「近い存在であるはずのひと」や風景を撮りながら、そこに生じる距離を新たに映し出している。
「誰とも似つかないひと」と出会い、向き合うなかで、避けては通れない状況や瞬間。それを見つづける視点。
撮ることが奪うことではなく、日々の記録でもなく、親愛が生み出す距離のその寂しさと眩しさこそが静かに焼き付けられている。
対象となるひとやもの、そしてその瞬間への敬意とも思える距離のなかに、またとない光と影は編まれた。
写真という窓を通して見ること。そして写真がつなぐこと。隔たりであり、同時に関わりである窓を挟んで、相手も自分も常にあたらしい存在となる。
そして、この写真集そのものも、見るひとに手向けられた、近しいはずの「あたらしい窓」に違いない。
(赤々舎)
幼い頃の体験や、いまも進んでいる生活に私はおおきな関心と執着がある。前者は独自のアルバムであり、後者は他の誰でもなく、自ら選んで作っていくものだ。住む場所、食事、服装、そして関わる人々までも、自分で決めていい。知らない駅で降りてもいいし、猫と踊ったって構わない。
数々の体験と選択が、誰とも似つかないひとを形成していく。それぞれにオリジナルのエピソードがあり、その手触りが宿っている服や映画、そして音楽に感銘を受けてきた。それらはごく個人的なものごとを出発点にしながら、受け取るひとが自分のことのように思えるしなやかさと、そこから未知の眺めへとひらいていく豊かさを併せ持っている。私はそれを、写真でやりたい。"
(木村和平『あたらしい窓』あとがき より)
著者:木村和平 デザイン:須山悠里 出版社:赤々舎 2021.1 hardcover 255mm × 180mm 120p
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