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黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える

『短歌は、大きな物語を収めるには小さな器である。けれどその小ささは、ほうっておくと零れ落ちていくようなシーンを掬ってくれる。「がん」という大きな出来事を経験した皆さんの、一人ひとりの小さな物語を掬い、自分自身のお守りになるような歌を残してもらいたい。そんな思いでレッスンを始めた。』

これは、本書の監修を務めた歌人岡野大嗣さんのあとがきの言葉です。
がん当事者の「闘病の不安に寄り添う、女性がんサバイバーによる短歌集を出版したい」という思いから生まれた「あの風プロジェクト」。このプロジェクトに集った26人のがんサバイバーの「口ずさめるお守り」が本書には収められています。この26首には希望もあり絶望もあります。それぞれが経験したことを歌にすることでその人だけのお守りになっています。そしてその歌が「あなたはひとりではない」と響く。その不思議な言葉の力にただただ心を動かされる。
短歌に寄り添うイラストは西淑さん。西さんの絵も「零れ落ちていくシーン」を丁寧に掬ってくれています。恐らく、短歌と絵は相性が良いのでしょうが、本書に収められている絵は格別のものがあります。
短歌と絵の構成、コデックス装と北野亜弓さんが手がけた装幀も素晴らしく、本当にお守りのような本だと思います。

短歌、連作、そしてそれぞれの体験を綴った短文の三部構成。
是非手に取ってみてください。

著者:26人のがんサバイバー あの風プロジェクト 監修:岡野大嗣 イラスト:西淑 装幀:北野亜弓(calamar) 出版社:左右社 2021.2 初版 ソフトカバー(コデックス装)108p
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