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帰宅途中、坂道を降りくだった先に見える人々が奈落であった
わたしの戦慄きは空へ沈黙した 呆然と立ち尽くす
たぶん断食した聖女の肋骨のように顔面は引き上がっている
こかで確信があった 群衆は死に向かっている と
そしてゆくゆくはわたしも群衆にならざるを得ないのだ と
平凡な有限性の現実に直面したとき背景へ怒号した
お前は世界でもっとも貧しい者になれ!
都市が停電したかのような怒号であった
人類の底辺に接するかんがえを持つ者だとわたしは
戒律へ刻みこんで生きてきた
わたしより鬱向く人間を知らないからだ
きっとこの怒号は死んだ神の怒号だ
神も同じく群衆の死へ向かう様子に戦慄した
そして否定なく飛び込んでいった
坂道をせっせと降って行ったに違いない
(「絶望は坂道のあとで」より)

1997年東京生まれの詩人、北村岳人の詩集。

「詩はわたしを裏切らない」。このひとつの信念を肚にすえた若い詩人は、混沌とし際限なく腐敗した現代に対峙し、果敢に反抗する。瑞々しく苦い感性から生まれた、虚構の日常を深く穿つ15篇の詩が屹立している。
(港の人)

カバー写真は鷹野隆大〈カスババ〉より
装幀は須山悠里

著者:北村岳人 装丁:須山悠里 出版社:港の人 2020.10 初版 ハードカバー 48p
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1,980円(税込)

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