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紫雲天気、嗅ぎ回る 岩手歩行詩篇

今でた向かいホームの電車は濃い紫ライン
その奥の空は淡い金色とくらくなる雲
青い駐輪外灯の下は別の世界だ
まだ学校帰りの話題が続く男の子たちを
あの一帯は知らない間に飲み込んでいる

向かいのホームのベンチにはもう秋が居座り
それはくらがりの水気と
白い電燈の身を切るような発光でわかるのだけど

ひるま風がやわらかで
人肌のやさしいなつかしさを持っていた
あれが夕方になって
冷えてさみしく錆びついている
意識の外でも伴奏は流れ
待合室にも秋は生じていた
一度ここを出てしまえば
みんな白と淡いうすまった金色の水中
泳いだ記憶だけが
あとまでずっとついてくる
(花巻駅)

2018年鮎川信夫賞の気鋭詩人、暁方ミセイの最新詩集。少女の頃から宮沢賢治の世界に魅了されてきた詩人暁方ミセイが、小岩井農場や花巻などをうろうろ歩きながら、賢治の幸せについて考えた、ミセイの「心象風景」。

著者:暁方ミセイ 装丁:佐野裕哉 出版社:港の人 2018.10 初版 ハードカバー 48p
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1,760円(税込)

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