「雲は大好きです。とても気持ちのよい道連れで、まるで誠実な、もの静かな仲間のようです。雲がでるや、空は動きに満ちた、人間らしいものになります。」
散歩文学というものはあるだろうか。あるとすればこの本の右に出るものはないだろう。
カフカ、ベンヤミン、ゼーバルトらを魅了する作家ローベルト・ヴァルザーと彼に心酔した伝記作家カール・ゼーリヒの散歩。
交錯する二つの声は生について、文学について、自然について朗らかに響く。ヴァルザーの命が果てるまで。
1957年の初版刊行以来、繰り返し参照されてきた最重要の伝記的文献。
何よりもカール・ゼーリヒの文体と新本史斉の翻訳が素晴らしく心地よい。
綺麗な本です。
以下版元より
カフカやゼーバルトなど、現在に至るまで数多の書き手を惹きつけてやまないドイツ語圏スイスの作家、ローベルト・ヴァルザー(一八七八―一九五六)が散歩中に心臓発作で亡くなった翌年に刊行された本書は、ヴァルザーについての基礎的な伝記資料として幾度も版を重ね、複数の言語に翻訳されてきた。 ヴァルザーは精神を病んで文学的に沈黙して以降、スイス東部ヘリザウの病院に暮らしていたが、彼のもとを定期的に訪れていた数少ない人物のひとりが、本書の著者、カール・ゼーリヒ(一八九四―一九六二)である。さまざまな作家の支援者として知られたゼーリヒは伝記作家でもあり、彼がヘリザウを起点に、ヴァルザーと連れ立って出かけていった散策の足跡を書きとめたのが、本書なのである。 本書の記述は一九三六年七月、最初の散策から始まる。ヴァルザーはすでに筆を折って久しかったとはいえ、ふたりの会話のなかで示されたという文学や社会をめぐる彼の洞察はめっぽう鋭く、また、その言動はどこか、彼の作品中の登場人物を思わせる。ふたりの驚くべき健啖ぶり、健脚ぶりも見どころ。ゼーリヒが散策中に撮影したヴァルザーのスナップを口絵に収めた。
著者:カール・ゼーリヒ 訳:新本史斉 出版社:白水社 2021.11初版 ハードカバー 243P
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