物語の舞台は広島市南区出汐に立つ四棟の煉瓦の建物「広島陸軍被服支廠(ひふくししょう)」。
陸軍の軍服・軍靴などを作る工場とそれらを保管する倉庫だったこの建物は原子爆弾投下の際、爆心地から2670メートルの距離にありながら、倒壊を奇跡的にまぬがれ、今も現存している。被爆後、この建物は臨時の救護所として活用され、多くの人を救い、被爆した多くの命を見送った。
建物の存在感に圧倒された画家・イラストレーターの黒田征太郎は被爆建物の記憶を伝えるため絵を描き始め、後世に伝えるために物語を書くことを小説家の池澤夏樹に依頼する。
平和と戦争を問い続ける二人の作家による忘れてはいけない物語。
ネコとクスノキの対話から物語は始まります。
※先着ポストカード付
【あらすじ】1945年7月、煉瓦造りの大きな建物を見つけたネコは神社のクスノキに尋ねます。「あれはなに? あの大きな建物」「りくぐんひふくししょー」。兵隊の服を作り、穴が空いた服を繕い、再び兵隊へと着せる。なぜ穴が空いているの? 人も草木のように生えてくるの? そんなネコの疑問に答えながら、クスノキは人間がやがて引き起こすだろう凄惨な未来を予見して怯えます。そして、同年の9月。再会したネコとクスノキが、互いが目にした2カ月間の様子を語らいます。
*池澤夏樹による解説「ヒストリー陸軍被服支廠」収録
文:池澤夏樹 絵:黒田征太郎 木工制作:早川謙之輔 早川泰輔 写真:ただ 出版社:スイッチ・パブリッシング 2022 ハードカバー 72p
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