常識を鵜呑みにしない精神の柔軟さと驚くべき観察眼。
対象の弱みを鋭く突いてなお嫌味にならない毒のあるユーモア。
緩急自在の文体で描かれる、潑溂とした知的な道中のなかで、いま、「隅々」という新しい言葉の地誌が生まれる。
ーー堀江敏幸
これは凄い。初めて読む文章だ。この人の文章を読むのは初めてだから当然だが、似たような文章も読んだことがない。あえて挙げれば町田康だが創作ではなく紀行文でここまで毒と洒落が効いているのはなかなかない。昭和8年発表とは俄に信じ難い。約350ページに及ぶ痛快な欧州の旅。
激動の世界を巡ったひとりの女性の、弾むような、いきいきとした旅の記録。
渋沢栄一の孫にして、稀代の文章家であった市河晴子――その代表的著作である『欧米の隅々』(1933)『米国の旅・日本の旅』(1940)から一部を精選。注・解説・年譜・著作目録等を付す。
編者は、フランス文学者にして、プルースト『失われた時を求めて』個人全訳刊行中の高遠弘美。
著:市河晴子 編:高遠弘美 出版社:素粒社 2022 初版 400p
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