人間の根源的な能力ともいえる、「記憶」とは一体どのような意味を持つものなのだろうか。
「記憶」とは、自らにかけがえのない固有の経験にも、さらには「統合失調症」や「外傷」といった太古の昔から現代にまで直結する病の具体的な治療の現場にも、その最も重要な動因として関わっている。
精神科医・中井久夫の学問的到達点。
「花の匂い」の記憶という私的な文章に始まり、やがて精神(記憶)と病の関係性に拡がりを見せる。そして終盤には「身体」について鷲田清一と対談を収録。
阪神大震災以後の論文が骨格となっている本書、中井先生の代表作と言っていいでしょう。
まえがき
1 徴候
世界における索引と徴候
「世界における索引と徴候」について
2 記憶
発達的記憶論——外傷性記憶の位置づけを考えつつ
3 外傷
トラウマとその治療経験——外傷性障害私見
統合失調症とトラウマ
外傷神経症の発生とその治療の試み
外傷性記憶とその治療——一つの方針
4 治療
医学・精神医学・精神療法は科学か
統合失調症の経過と看護
「統合失調症」についての個人的コメント
5 症例
統合失調症の精神療法——個人的な回顧と展望
高学歴初犯の二例
「踏み越え」について
6 身体
身体の多重性
「身体の多重性」をめぐる対談——鷲田清一とともに
*
アジアの一精神科医からみたヨーロッパの魔女狩り
あとがき
著者:中井久夫 出版社:みすず書房 2022 11刷 A5判 / ハードカバー / 416p
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