”心的外傷とは権力を持たない者が苦しむものである。外傷を受ける時点においては、被害者は圧倒的な外力によって無力化、孤立無援化されている。外力が自然の力である時、これは災害である。外力が自分以外の人間の力である時、これを残虐行為という。通常のケア・システムは自分は自分をコントロールでき、人とつながりを持て、自分がいることには意味があるという感覚を人々に与えるものであるが、外傷的な事件はこのケア・システムでは及ばない圧倒的な力を持っている。”
心的外傷(トラウマ)問題の「バイブル」とされる本書。
女性への暴力を中心に、心的外傷障害の諸相とその治癒・回復への方向性を具体的に示す。
本国アメリカでの発表が1994年、中井久夫訳による日本での初版が1999年。
著者はこの問題に対する取り組みは流動的であり、<私>の問題であり、<あなた>の問題であり、<私たち>の問題であることを強調している。だからこそ、多くの人に読み継がれる必要がある。
第一部 心的外傷障害
第1章 歴史は心的外傷をくり返し忘れてきた
ヒステリー研究の英雄時代
戦争(外傷)神経症
性戦争の戦闘神経症
第2章 恐怖
過覚醒
侵入
狭窄
外傷の弁証法
第3章 離断
損われた自己
易傷性と復元性
社会的支援の効果
社会の役割
第4章 監禁状態
心理学的支配
全面降伏
慢性外傷症候群
第5章 児童虐待
虐待的環境とは
ダブルシンク
二重の自己(ダブル・セルフ)
身体への攻撃
子どもが成人すると
第6章 新しい診断名を提案する
誤ったレッテル貼りとなる診断
新概念が必要となった
精神科患者としての被害経験者
第二部 回復の諸段階
第7章 治癒的関係とは
外傷性転移
外傷性逆転移
治療契約
治療者へのサポート・システム
第8章 安全
問題に名を与える
自己統御の回復
安全な環境を創る
第一段階を完了するには
第9章 想起と服喪追悼
ストーリーを再構成する
外傷性記憶を変貌させる
外傷性喪失を服喪追悼する
第10章 再結合
たたかうことを学ぶ
自分自身と和解する
他者と再結合する
生存者使命を発見する
外傷を解消させる
第11章 共世界
安全のためのグループ
想起と服喪追悼のためのグループ
再結合のためのグループ
付 外傷の弁証法は続いている
解説 小西聖子
著者:ジュディス・L・ハーマン 訳:中井久夫 出版社:みすず書房 2023 19刷 A5判 / ハードカバー / 496p
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