雨は山になりつつあった
雷が息を殺す
アプリが三十分後にぼくは眠ると言った
だけどもうすこし粘ってささやく雷を聴く
声がセミからして
雨がやんだ跡が山になって 大航海をすませたセミが
精一杯鳴く声がする
「鳴くことは喋ることじゃない」
だから尺度を探してぼくを見てほしい
雷が鳴いた
ー
第28回中原中也賞受賞
青柳菜摘による二冊目の詩集。37篇所収。
虫や自分を含む人間への眼差しが常人とはかけ離れている。
カフカの世界に迷い込んだのかとすら思う。
青柳菜摘(あおやぎ なつみ)
1990年東京都生まれ。ある虫や身近な人、植物、景観に至るまであらゆるものの成長過程を観察する上で、記録メディアや固有の媒体に捉われずにいかに表現することが可能か。リサーチやフィールドワークを重ねながら、作者である自身の見ているものがそのまま表れているように経験させる手段と、観客がその不可能性に気づくことを主題として取り組んでいる。
2016年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。近年の活動に「亡船記」(十和田市現代美術館, 2022)、「家で待つ君のための暦物語」(東京藝術大学大学美術館, 2021)、オンラインプロジェクト「往復朗読」(2020-継続中)、第10回 恵比寿映像祭(東京都写真美術館, 2018)など。また書籍に『孵化日記2011年5月』(thoasa publishing, 2016)、小説『フジミ楼蜂』(ことばと vol.3 所収, 2021)、詩集『家で待つ君のための暦物語』(2021)がある。コ本や honkbooks主宰。「だつお」というアーティスト名でも活動。
著者:青柳菜摘 造本設計、装幀:柳川智之 発行:thoasa 2023 2刷 ソフトカバー/ドイツ装 19.5×21cm 118p
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