”シェアやレンタルがあるのに、なぜ人は所有を手放せないのか?
富の偏在は、なぜ無くならないのか?
「所有」を問うことは、人間の本性、社会の成立過程、資本主義の矛盾を考えることである”
目次
まえがき 梶谷懐
第1章 所有と規範 岸政彦
―戦後沖縄の社会変動と所有権の再編
1 都市化の帰結
2 貧困と排除
3 子どもたちの共和国
4 自治の感覚
第2章 手放すことで自己を打ち立てる 小川さやか
―タンザニアのインフォーマル経済における所有・贈与・人格
はじめに
1 私有した後の財のゆくえ
転売・転贈・シェアを想定した所持/生計多様化戦略としての財の所持
2 「私有の失敗」の合理性
長期的な商売戦略/マリ・カウリ取引/「助けあい」の意識
3 変転する環境における所有
タンザニア現代史/所有への信頼低下
4 財の分散と人格の分散
「保険」としての財の分散/贈り物の来歴と人格の拡散
5 社会をつなぐハブとなる
自らの系譜を打ち立てる/「自己」の生成/客筋の「ネクサス」としてのインフルエンサー
まとめ
第3章 コンヴェンション(慣習)としての所有制度 梶谷懐
―中国社会を題材にして
はじめに―制度と文化的信念
1 コンヴェンションとしての所有制度
ルールと均衡/均衡1―進化ゲーム理論/均衡2―コンヴェンション/エスカレーターは左か右か/歴史のなかのコンヴェンション―奴隷貿易から
2 「アジア的な所有」と東洋的専制主義
アジアの「弱い所有権」/水力社会/華北と江南の差異
3 伝統社会のコンヴェンション1―土地所有制度
土地公有制/農地開発の一元化/土地制度改革/所有権・請負権・経営権の分離/中国的な所有権―管業と来歴/理念的上級所有権としての「王土」概念/リスクシェア/所有の起源―信用取引/民衆の生存戦略
4 伝統社会のコンヴェンション2―企業制度
法人企業の二重性/中国の雇用形態―傭・合股・包/「合股」の特徴/土地株式合作社/中国型資本主義―国有企業の拡大/大手IT企業の戦略
まとめ
第4章 経済理論における所有概念の変遷 瀧澤弘和
―財産権論・制度設計から制度変化へ
はじめに
1 新古典派と私的所有
市場交換を可能にする所有/「見えざる手」のメカニズム
2 ロナルド・コースの洞察
制度の経済学/取引費用から財産権へ
3 所有権と財産権の理論
新制度派とエージェンシー理論/取引費用理論/財産権理論
4 市場設計の時代へ
所有権とは何か/制度設計の潮流/所有権・財産権の再設計
5 ポスト・ゲーム理論の制度論―制度変化の理論に向けて
ゲーム理論による制度分析の長所/進化ゲーム理論/ルイスのコンヴェンション理論/ 青木昌彦の制度モデル/慣習的行動を規制する階層化された制度/共的資源の統治/制度の本質―実効化/習慣⇔インフォーマル⇔フォーマル間の相互作用
まとめ
第5章 資本主義にとっての有限性と所有の問題 山下範久
はじめに
有限性の壁/主体のヒトが、客体のモノを「所有」する/世界システム論の意味/左翼の歴史
1 世界システム論の二つの顔と所有の問題
私的所有と賃労働/外部を内部に収奪する二元論―植民地建設、石油資源/収奪の論理―文明と野蛮、オリエンタリズム、科学/ロックの所有論/外部の消滅―有限性/一元論の逆襲
2 資本主義的世界=生態
ヨーロッパ中心主義批判vs.市場の自然主義批判/資本主義的と自然の「束ね合わせ」/資本主義―収奪なくして搾取は持続しない/自然からの贈与が収奪に変わる/資本主義と自然の共−生産
3 内在化という「新しい資本主義」
「安価な自然」と奴隷/フォーディズムからポストフォーディズムへ/男性労働者の包摂からマイノリティの包摂へ/収奪のネットワーク化/モノの民主化/データキャピタリズムの影
まとめ
内在化は市場化ではない/モノは自然だけではない
第6章 アンドロイドは水耕農場の夢を見るか? 稲葉振一郎
はじめに
1 「所有」の来歴―ロック、動物、AIから考える
2 所有財産としての農業システム
3 「農の論理」vs.「市場の論理」
4 生物と無生物の間の時代
あとがき 岸政彦
編著:岸政彦/梶谷懐 出版社 publisher:中央公論新社 2023 ソフトカバー 357p
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