”たわわに実をつけた大きな夏みかんの木のある庭で、
エリは雲ひとつない青空を見上げ大きく息を吸い込んだ。
この匂い、そして体がふうっと風と同化するようなすがすがしさ。
海辺に引っ越してきて毎日毎日、自分が生きているということを
納得させてくれた空気感は今日も一緒だった。
そしてこれからもそんな空気に包まれた生活を続けながら、
その心地好さを伝えていくのが自分のこれからの仕事なんだと思った。”
2001年の発行以来、静かに読まれてきた永井宏さんの短編集。待望の復刊です。
東京から葉山へ越してきた女性が主人公。
自分の時間を生きること、自分の人生を生きること。
そして永井宏さん自身を思わせる貸しボート番のアルバイトを始めたフリーライターの淡い恋を描く「砂浜とボート」を併録。
タイトル、装丁、海辺の空気、そういうものに少しでも惹かれたら是非読んでみてください。
巻末エッセイ:小栗誠史「永井さんは文化の入り口」
著者・アートワーク:永井宏 出版社:信陽堂 2023.9 初版 ハードカバー 176p
新刊書籍