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大阪の生活史 岸政彦 編

"150人が語り、150人が聞いた大阪の人生"

この街に三五年以上住んで、やっぱりここがいちばん良い街だと思っている。
 もちろん、どの街も、それぞれが世界でいちばん良い街だ。
 それはちょうど、飼ってる猫が世界でいちばんかわいい、ということに似ている。ほかの子を飼っていたら、もちろんその子が世界でいちばんかわいい猫ということになる。世界中の猫が、それぞれ、世界でいちばんかわいいのだ。
 だから、大阪が世界でいちばん良い街だ、ということと、それぞれどの街も世界でいちばん良い街だ、ということは、矛盾しない。
 だが同時に、大阪がどうしても合わず、嫌になって出ていくひとも多い。そういうひとにとって大阪は、世界でいちばん合わない、嫌な街ということになるだろう。
 それもまた別に矛盾しない。
 大阪は、世界でいちばん良い街で、世界でいちばん嫌な街で、要するにそれは、世界でいちばんふつうの街で、世界でいちばんどこにでもある街だ。
 すべての街が、世界でいちばんどこにでもある街である。
 そこで生まれ、暮らして、死んでゆく、世界でいちばんありふれた私たち。

(岸政彦「あとがき――世界でいちばん、普通の街」より抜粋)

編:岸政彦 ブックデザイン:鈴木成一デザイン室 出版社:筑摩書房 2023 ハードカバー 1280P
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