書物。
文字がたくさん配置され、それぞれがその場所で他のものと関係して意味を持ち、整合され、全体となる書物。
たとえば「さ」という文字。
「く」と出会って咲くとなり、「ら」と出会って桜となり、桜咲くとなる。
〜
だが。
書物のなかにありながら、意味するものにはとらわれず、意味するものとはまったく無縁に、言葉の海を泳ぐ魚がいる。
紙の魚。紙魚(しみ)。
紙を食い破り、文字のつながりに裂け目をもたらし、脈絡を断ち、配置をほどき、脱落させ、散乱させ、べつのつながりへの可能性を開き、試み、意味を解体し、異なるものへと変化させる。
(「まえがき」より)
空前の文体で書かれる文芸エッセイ。書物に残された僅かな痕跡からこの世界を紐解いていく。『空腹について』『エコ・ロゴス』から10年以上の時を経て放たれる圧巻の一冊です。
”武田百合子、こうの史代、石牟礼道子、細田守、赤塚不二夫、立川談志、やなせたかし、荒川弘、宮沢賢治、大江健三郎、瀬戸内寂聴————かれらの〈テクスト〉のなかにかろうじて痕跡をとどめる、けったいなもの、不器用なもの、たよりないものたちに目を凝らすことで、意味に絡めとられたこの世界に、わずかな綻びをもたらす。”
著者:雑賀恵子 出版社:青土社 2024 ソフトカバー 244p
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