七月末の暑い日であった。パリから直通のTGVに乗って、グルノーブル駅に着いた。駅舎の外に出ると、期待していた涼しさどころか、強い太陽が照りつけて目がくらみ、パリとはまったくちがう厳しい暑さに呆然となった。足元から熱気がむっと立ちのぼってくるこの感じは、学生時代に過ごした京都の夏みたいだ、と思った。
(名前とは最後のため息)
セザンヌの山とミヨー家の庭
白いアルヴ川と荷風の物語
沈黙の修道院と黒い鳥
シャモニーの裏山のフキ
故郷の山に帰るスタンダール
ラスキンの石の隠れ場
ロラン・バルトの翻訳でも知られるフランス文学者・翻訳家の石川美子のエッセイ集。
幼少の頃から山と文学、そして美術にも親しんできた作家が綴る言葉は深い素養に裏打ちされ、どこまでも静かだ。記憶の引き出しを開け、人生の美しさと哀しみを語る本書はこれぞ文学と言える傑作だ。
カバー画はセザンヌ。
著:石川美子 出版社:ベルリブロ 2025 3刷 ハードカバー 288p
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