音楽はただエンターテインメントであったり芸術であったり商品であったりするわけではない。非合理なものを引き寄せるだけの力をもったものであり、それが一方で音楽文化の豊かさを示しているとも言える。
(はじめに)
「日本音楽」と呼ばれる雅楽、能、歌舞伎、文楽は近代以前、「都市文化」であった。それが明治以後、身分制度の撤廃や社会構造の変化、西洋音楽の輸入により、前提が崩れていく。”表通り”がその変化の只中にあって、”裏通り”はどうなっていたのだろう。音楽史では表立って扱われない神話、都市伝説、怪談など。異形と言われる非合理なものの文化史。
第1部 近代の誕生 ――明治期
日本音楽史の正体 ――「抹殺博士」重野安繹の歴史と神話
近代に彷徨う武士の幽霊 ――軍歌「抜刀隊」と西郷星
日露戦争と情緒のかたち ――平民歌・民謡・俚謡・「軍歌のような讃美歌」
音楽と怪異のゆくえ ――鈴木鼓村の筝曲と怪談
第2部 「日本らしさ」と西洋音楽 ――大正期
地震と流行歌 ――中山晋平と幸田露伴の音楽観
客観性という名の異端 ――兼常清佐と日本音楽史
第3部 「大東亜共栄圏」と伝統の解釈 ――昭和期
民族意識と空想の世界史 ――ムー大陸・日ユ同祖論
日本毛毬唄雑考 ――横溝正史『悪魔の手毬唄』をめぐって
著:齋藤桂 出版社 publisher:春秋社 2015 初版 ハードカバー227p
B(帯付)