「高くそびえる山の頂上で、彼女はアポロンにファックしようと迫られ、それを拒んだ。神は見返りを約束して言い寄ったが、彼女はなびかなかった。そのため、彼女は生きる限り続く呪いをかけられた。」
文学史の中で書かれたなかった、消えていった、見えないヒロインたち。
1977年生まれ、ニューヨーク在住の作家ケイト・ザンブレノがブログに綴ったのはそんな女性たちの姿でした。
女性たちの沈黙に耳を傾け、その聞こえない声を書き記す切実さが本書には溢れています。
「ザンブレノ自身の夫との関係や作家としての苦悩、過去の回想や日常の記録に、モダニズムの巨匠たち(フィッツジェラルドやT・Sエリオット、ジェイムズ・ジョイスetc..)の妻や愛人などミューズたちをはじめ、それ以前とそれ以降の時代の女性の作家たちや架空のヒロインたち、インターネット時代の書き手たちが織り合わされていく。いくつもの断片を重ね、全体として浮かび上がらせるのは、文学とは何か、作家とは誰か、狂気とは何か、それらを決定してきた言説や構造と、それに抗って書こうとするザンブレノ本人の姿である。」(訳者あとがきより)
そしてまたこの本を翻訳し自ら出版した西山敦子さんの切実さが本書の魅力を一層引き出していることは疑いようがなく、生きづらさを感じている現代の女性たちに捧げられたこの本がこれからますます読まれることを期待せずにはいられません。
絶妙な装画はイラストレーターのカナイフユキさん
著者:ケイト・ザンブレノ 訳:西山敦子 出版社:C.I.P. BOOKS 2018初版 ソフトカバー 428p
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