イギリス南東のサフォーク州の海岸線や内陸にひっそりとある町々をめぐる徒歩の旅。
『〈私〉という旅人は、どこか別世界からやってきた人のように、破片を拾い上げ、想起によって忘れ去られた廃墟の姿を甦らせる。人間の営みを、人間によって引き起こされる破壊と惨禍を、その存在の移ろいやすさとともに見つめようとする眼。歴史を見つめるその眼差しは、そこに巻き込まれた個々の人間の生、その苦痛に注がれている。』
時間と空間、そしてかつてここで生きた人々や建築を呼び戻し、連想する。
ゼーバルトの本領が凝縮されたような一冊。
「作中入れ替わり立ち替わり現われる奇妙なエピソードは、それぞれ独自の奇怪さを有していて、印象としては、すべてが次第にひとつに収斂していくのではなく、何もかもがいつまでも横滑りしていく感がある。」(柴田元幸)
解説:柴田元幸「この世にとうとう慣れることができなかった人たちのための」
著者:W・G・ゼーバルト 訳:鈴木仁子 出版社:白水社 2020.7初版 ハードカバー289p
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