ふれられそうでふれられない
いとしいひとの記憶のように
深く、くらい
ひかりにみちた場所がある
眠る人のまぶたの薄さほどの
ほんのすこしのへだたりをこえて
そこへ歩みだすこと
それがすべてのような気がしていた
けれどそれはまちがっていたのかもしれない
(イクラの味)
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「遠いひと」、「トンボの記」、「もしもし、聞こえますか?」、「そしてまた雨が降る」、「イクラの味」
四つの長編詩から成る、およそ三年ぶりの藤本徹の第二詩集。
第一詩集「青葱を切る」を幾度も読みつつ、この本が出来上がるのを心待ちにしていました。
街を歩く、独りの男の目に映る海原のような光や少年の汗、聞こえてくる鳥や虫のささめき、雨音、雪降る街の静けさ。
気づけばひとり、記憶を辿りながらアルコールを呷る。
けれど詩人はその孤独を甘いといい、もっと頬張りたいと言う。
そしてじっと何かに耳を澄ませている。
静けさに包まれたこの詩集の中で、気が付けば僕も狩野岳朗さんの描いた装画のような淡い記憶を反芻している。
たくさんの方に届きますように。
著者・発行:藤本徹 装画:狩野岳朗 装幀:清岡秀哉 2019.12 ソフトカバー
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